2012年7月23日月曜日

「漢の花園」ANNEX

アカンサス~森に息づくOB今井兼次博士の魂~


二日ばかり涼しいナと思っていたら、また暑くなってきましたネ。母校の森も夏真っ盛り!日学名物・滝のような蝉時雨が降る日も近づいて参りました。さて、このコーナーが始まった三年前の夏のある日、和田事務長(S37卒)からこのようなお話を伺いました。「学内の至る所で繁茂しているアカンサスという植物、どーもアレは一号館を設計した卒業生、今井兼次博士が植えた株の子孫らしいヨ・・・今井博士はアーキテクトだから、古代ギリシャ建築のモーチフに使われるアカンサスに特別の想い入れがあったのかもしれないね・・・」。古代ギリシャ建築?アカンサスって何?・・・それから三年、無学な僕も「漢の花園」を通じて多少勉強いたしましたので、満を持してアカンサスと天才アーキテクトの生態的かつ芸術的関係を調べてみました。

アカンサス(葉薊・ハアザミ:キツネノマゴ科) 

アカンサスは地中海沿岸地方(北西アフリカ・ポルトガル・クロアチア)を原産とする植物で、日本には大正時代に持ち込まれたそうです。大型の常緑多年草で葉はアザミのような深い切れ込みがあり、長さ1m幅20cmにもなります。初夏に最大2mに達する花茎を伸ばし、紫がかったカバーのような苞葉の下に白く地味な花を下向きに咲かせます(上写真)。非常に撮影しづらい花であります。日本学園では正門周辺の森、中庭ヒマラヤスギの下の緑地帯、二号館前の植込み、二号館裏などなど、とにかく至る所に大きな群落が見られます。

ただし、この植物、決して珍しい種類ではありませんが、近所の庭や公園に生えているようなメジャーな種類でもありません。なにしろ株が巨大化するため狭い庭やプランターでの植栽には不向きなのであります。花だって地味ですから、好んでアカンサスを植えたいと思う方も少ないはず・・・では、なぜ日本学園にはアカンサスがこれほど猛烈に繁栄しているのか・・・そこには日本学園にアカンサスを植栽した何者かの意図やメッセージを濃密に感じるのであります。

若き日の日本中学校(日本学園)OB今井兼次博士 
(早稲田大学名誉教授・日本芸術院会員) 

そこでOB今井兼次博士の登場であります。今井先輩は日本中学校・早大理工学部建築学科を卒業し、1920年に早大助教授に就任。1929~1927年に東京地下鉄駅舎の設計にあたり欧州へ外遊。北欧・欧州各国を巡り、バウハウスなどのモダニズム作品やアントニ・ガウディ、シュタイナー等の作品を日本へ紹介しました。特にアントニ・ガウディの紹介者としては草分け的な存在です。その指向性を表すように今井博士は合理的・機能的なモダニズム建築からは距離を置き、建築に職人の手技・芸術性を感じる作品を追求。1928年の帝国美術学院(現・武蔵野美術大学)や多摩美術学校(現・多摩美術大学)の設立にも関わりました。今井先輩は建築に有機的な生命力を吹き込もうとした芸術的アーキテクトだと僕は解釈しております。

ローマのパンテオン  

 日本学園一号館

日本国の有形文化財である日本学園一号館が今井先輩の代表的作品であることは、もはや世界的な常識ですが、その一号館の佇まいを想起させる歴史的建造物のひとつに「パンテオン」があります。パンテオンはローマ市内のパラティヌスの丘に建造された神殿であり、様々なローマ神を奉る万神殿でした。当時の驚くべき建築技術で建造された数的比例の美と壮大な空間は、西洋建築史上不朽の名作に数えられ、世界遺産としても登録されています。で、ご注目いただきたいのがパンテオンの石柱頭頂部の装飾であります。

三井本館(国指定重要文化財・昭和4年竣工・東京都中央区)のコリント式大列柱。 
反り返るアカンサスの葉の造形が分かる。 

これは「コリント式」と呼ばれる古代ギリシャ建築における建築様式だそうで、「ドーリア式」「イオニア式」と並ぶ3つの様式のひとつ。溝が彫られた細身の柱と“アカンサスの葉”が象られた装飾的な石柱頭頂部を特徴とするそうです。ここで今井先輩の感性と一号館の意匠、そしてアカンサスを結ぶ糸が見えてきたような気がします。一号館の設計にかけた今井先輩の印象深い言葉が残っています。「母校の諸君よ。どうか杉浦重剛先生のこの学校をわが家と思い、大切にされんことを願う(母校新校舎小史)」。

ここからは推論ですが、今井先輩は一号館に偉大な教育者である杉浦先生の超絶的な「風格」を表現したかったのではないでしょうか。その風格のイメージを杉浦イズムを敬慕する求道者(学生)の集う神殿のごときデザインに昇華させたのかもしれません。そしてアカンサスを神殿の柱に相応しいコリント式の装飾に見立てて秘かに構内に植えた・・・それは建築に生命の躍動を追求した今井先輩らしいイマジネーションと遊び心だった・・・・。かなり強引な推測ですが、母校に繁栄するアカンサスを見ていますと、そんな想像もあながち的外れではないように思えます。日本学園が生んだ偉大なアーキテクトの魂は、今も母校の森で後輩たちを見守っている、僕はそう思うことにしました。在校生諸君、アカンサスを大切に!

二号館裏のアカンサスの群落。葉のデザインと花の背丈に注目。 画像クリックで拡大


広報部会 S56卒 永澤

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

素晴らしいです。