先日、日本中学校OB岩波茂雄の故郷、長野県諏訪市の「諏訪市立・信州風樹文庫」を訪ねました。同図書館には諏訪生まれの出版人、岩波茂雄(戦後初の文化勲章授与者)の史料・記録等を展示する「岩波茂雄記念室」があります。
岩波茂雄
1881年~1946年
「諏訪市立・信州風樹文庫」
岩波書店創設者、岩波茂雄は1881年(明治14年)諏訪市中洲に生まれ、諏訪実科中学校(現・諏訪清陵高校)を経て、当時、日本中学校(現・日本学園)校長職にあった校祖・杉浦重剛を慕って上京します。岩波は「家が貧しいので學僕として杉浦家で使ってもらい、日本中学校へ編入させてほしい」と熱意を込めた半紙8枚にのぼる毛筆の手紙をしたため、「請願書」と題して杉浦校長へ送ります。杉浦校長は岩波の至誠に感心し、「書生は無理だが一度上京せよ」との返書を出しました。
「岩波茂雄記念室」 画像クリックで以下拡大します
書簡や寄贈品、愛用の着物など貴重な資料・記録が展示されている。
「請願書」の書き出しには、「謹呈ス我大日本ノ教育家 杉浦先生閣下 茲ニ信陽ノ一寒生泣血頓首再拝シテ自己ノ境遇ヲ述べ胸中ヲ吐露シテ敢テ閣下ニ請願スル所アラントス拙劣ノ文閣下ノ耳目ヲ瀆スニ止マルト雖モ伏シテ希クハ一読ノ栄ヲ賜ランコトヲ」とあり、星雲の志に燃え、何としても上京して学問に励み、幼いころに父を亡くした一家を支えてきた母に孝養を尽くし、国家のために役に立つ人間になりたいと訴えました。
終戦直後に寄贈された岩波書店の201冊の寄贈図書の一部。
ふたりの諏訪の青年がリュックに背負い、東京から諏訪へ運んだ。
岩波は明治32年に諏訪実科中学校を卒業すると、母親の了解を取り付けて上京。日本中学校5年編入の受験に挑みますが不合格となります。そのときの模様を一緒に受験するため上京した同郷の守矢真幸(本学OB)は「岩波さんは憤慨しまして(中略)俺がこんなに杉浦先生を慕って来て入れないというなら、俺はもう死んでしまふ(中略)それから、どうしても入りたいと云って、杉浦先生に直々談判してくると意気まきはじめたのです」と語っています。校祖・杉浦重剛の高潔な人格を慕って日本中学校を目指した数多の学徒たち。岩波青年のエピソードは、その情熱を象徴するものと言えるでしょう。
日本中学校5年生に編入した当時の岩波茂雄と
恩師・杉浦重剛先生の写真展示
その後、岩波は特例で再試験に挑み合格。在学中の猛勉強により、第一高等学校~東京帝国大学哲学科に学び、大正2年に岩波書店の原点となる古書店を開業。画期的な『古本正価販売』を行い、書物の正当性を主張します。翌年には夏目漱石の知遇を得て『こころ』を出版。これが岩波書店の出発点となります。1927年(昭和2年)には「岩波文庫」を創刊。手軽な価格で古典の名著を普及させ、近代日本の文化教養の基盤を作りました。
なんと!展示には日本学園発行『百の年輪』も!
遠く離れた信州諏訪の地で母校の偉大さを実感!
岩波は故郷である諏訪市の教育、発展にも援助を惜しまず、1940年(昭和15年)には、自費を投じて「財団法人風樹会」を設立。経済的に恵まれない学者や教員を支え、地元中洲に風樹会館(現・中金子公民館)を寄贈するなど、人材の育成にも注力しました。「風樹」とは岩波の座右の銘『風樹の歎』によります。これは中国の韓詩外伝巻九にある「樹静かならんと欲すれど風止まず 子養わんと欲すれど親待たず往きて見るを得べからざるは親なり」という一節からとった言葉であり、そこには早くに両親を亡くし、報いることのできなかった後悔と、その思いを世の奉仕へ向けた岩波の決意が込められています。
【お世話になった信州風樹文庫スタッフの矢崎勝美さん】
岩波茂雄は同郷の朋輩にも日本中学校への入学を強く勧めました。矢崎勝美さんは、その勧めにより入学したひとりである矢崎文弥氏のご親族です。矢崎文弥氏は日本中学校卒業後、東京美術学校(現・東京芸術大学)へ進学し、地元の発展にも尽力されたとのこと。矢崎勝美さんは日本学園のことも良くご存知でした!矢崎さん、ありがとうございました!今後とも日本学園をよろしくお願い申し上げます!
信州風樹文庫を後にして訪れた冬の諏訪湖
敗戦後間もない1946年(昭和21年)、良書を読みたいと願う諏訪・中洲の青年たちは、岩波書店(岩波雄二郎社長)に図書の寄贈を願い出ました。翌年、1回目の寄贈図書201冊が二人の青年に背負われて到着。全国でただひとつ、岩波書店発刊の戦後の全書籍を収蔵する図書館「信州風樹文庫」が誕生しました。昭和30年に諏訪市立となった信州風樹文庫は、開かれた図書館として、市民の読書会や全国レベルの講演会など、特色ある活動が行われています。 校祖・杉浦重剛の薫陶を受け、文化教養の普及に尽力した岩波茂雄。信州風樹文庫はこれからも、その志を私たちに語りかける場所で在り続けます。
<諏訪市立・信州風樹文庫>
■月曜・祝日・毎月最終平日休館
■長野県諏訪市中洲3289-1 TEL/FAX 0266-58-1814
■JR上諏訪駅からタクシーで約2,000円/かりんちゃんバスも利用可能
広報部会 S56卒 永澤
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